アメリカの全米犯罪防止協会NCPC(National Crime Prevention Council)という団体があり、犯罪から地域の人々を守るための様々な活動が行われている。
そのホームページで、不審者から子どもを守るために何を子どもたちに教えるべきかを教えている。
例えば、
○こどもは不審者といえば、漫画に出てくるような悪党のイメージを持っているのが普通であるが、そう思うことは非常に危険なことであり、親はそのことをしっかり子どもに教えるべきである
○こどもが犯罪に遭いそうになったとき、どのような人に助けを求めるべきか、例えば、働いているときの警察官、消防官、学校の先生などは分かりやすいが、とにかく公的な施設に助けを求めるべきであり、普段から親はこどもと一緒に町にでたときに、しっかりと誰に助けを求めるべきかを認識させる必要がある
○誰かにつれていかれそうになったなどの危険に遭遇したときには、こどもに「行かない」「逃げる」「出来る限り大声を出す」「そして、そのことを信頼できる大人に話す」ことを教えなさい
などと細かく指導している。
今、日本においても子どもたちに教えている事は、これと殆ど同じである。
犯罪の多いアメリカでも、基本は同じということのようである。
不審者とは? そしてどうやって見抜く?
日経BPに「不審者を見抜け」という記事が掲載されていた。
安全生活アドバイザーとして著名な佐伯幸子(さえき・ゆきこ)氏の記事である。
氏の記事は、「そもそも不審者とは?」という問いかけからはじまっている。不審者とはそこに居ることが不自然な人、不自然な挙動をしている人など、何かが違うというような人のことを指すと考えられるが、そう簡単にはそれを見抜くことは難しい。その意味で、常態と異なる身近な変化に、我々はもっと注意を払うべきであるということを主張している。
確かに、不審者が現れた場所を地図に書き込み、地域全体で情報を共有し、お互いに連携して子どもたちの安全を守りましょうということで安全マップ”スまっぷ”をはじめたわけであるが、ここで言っている不審者とは、殆ど犯罪者に近い人であり、例えば学校帰りの子どもが見知らぬ人から声をかけられ、連れて行かれようとした場合などのことが不審者情報として扱われている。
”いつもと違う”という日常的な変化に、我々がもっと注意を払っていれば、危険に対してもっと敏感に対応できるようになるであろうし、仮に犯罪が起きてしまった場合においても、その情報は事件の解決に役に立つであろう。
その意味で、”スまっぷ”は、よりリアルタイムの情報、あるいは日々変化する情報を共有するための仕組みとして運用していきたい。
ニュージーランドでは、こどもが14歳になるまで一人歩きを禁止
たまたまTVを見ていたら、ニュージーランドの農村に住んでいる家族の生活ぶりが放送されていた。
そのなかで、ニュージーランドでは、子どもが14歳になるまでは親は子どもを外でひとり歩きさせてはいけないということが、法律で決められていると報じられていた。
ニュージーランドは、自然が豊かで犯罪も少なく理想的な生活ができる国とのイメージがあったので、早速ニュージーランドの犯罪事情をインターネットで調べてみた。
外務省の海外安全のページに掲載されているデータによると、日本と比べて犯罪件数はかなり多く、性犯罪などは日本の約31倍ということである。
調べていると、家で子どもだけで留守番をさせてはいけないということも法律できめられているらしい。
これでは、四六時中、親はこどもと離れなれず、子どもがなかなか自立できないのではないかと別の意味での心配も出てくるが、それほど子どもにとって、地域社会が危険な場所であるということを示しているのだろう。
一方、日本における最近の藤里町の事件や栃木の事件などを見てみても、日本でも子どもを守るためのなんらかの法律が必要になってくるのではないだろうか。
TV局は、こどもの事件が起きると、現地の中継などを含めかなりの時間をとって報道しているが、犯罪者の像や犯罪の背景に目を向けた報道が中心であり、子どもたちを守るために親や地域社会、さらに国は何をすべきがというような、事件から何を学ぶべきかということについての報道は少ない。
これでは、こどもの安全はいつまでも守れないのではないかと不安になる。
子どもが犠牲となる事件が、なぜ地方でおきているのか
秋田県の藤里町でおきた小学校1年生の殺害事件は、いまだ解決されていない。
栃木県の事件も、未解決のままである。
広島で起きた事件も含めて、子どもたちが通学路で犠牲になる事件は、都会よりもむしろ人口の少ない地方で起きていることが不思議でならない。
藤里町などは、世界自然遺産にも指定されている白神山地の郷でもあり、まさに自然環境に恵まれており、また、人口も少ない事から地域に住む人々のコミュニケーションは、都会に比べてずっと保たれているのではないかと推測できる。
子どもたちの通学路の安全は、地域コミュニティの連携によって守られるとすれば、藤里町は、都会よりもずっと安全なはずである。
それなのに、どうして事件は起きたのだろうか。
いくら考えても、答えは浮かんでこない。
豪憲君は、集団下校で友達やその保護者と一緒に帰り、最後、家までのあと僅か100m程度の短い距離で、一人っきりになってしまったあと、事件に遭遇している。
犯人は、待ち伏せしていたとしか思えない。
犯人像がまったく分からない中、どんな理由があって豪憲君を殺害することに至ったのか想像すらできないが、子どもの通学路の安全は、生半可な地域コミュニティの連携ということでは解決できないということを見せ付けられたのである。
しかし、それでも子どもたちの安全は、親・地域そして学校が連携しなければ守れない。どうすればいいのか、重い課題である。
警察庁「子ども110番の家」地域で守る子どもの安全対応マニュアル
警察庁は、「子ども110番の家」地域で守る子どもの安全対応マニュアルを警察庁のホームページに掲載しました。(6月1日)
子どもがこども110番の家に駆け込んできたときの対応について、分かりやすく説明しています。
またも、子どもが通学路で犠牲
秋田県藤里町粕毛家(かすげいえ)の後(うしろ)、自営業米山勝弘さん(39)の二男で町立藤里小1年豪憲(ごうけん)君(7)が下校途中の17日午後、行方不明になった事件で、18日午後3時ごろ、自宅から約10キロ離れた同県能代市二ツ井町荷上場下中島の米代川沿い市道脇の草むらで死亡しているのが見つかった。
[読売新聞社:2006年05月19日 03時16分]
またか、どうして・・・と絶句するばかりです。
この事件より1月ほど前の近所の女の子が水死した事件との関係も取りざたされています。
都会にありがちな隣近所のコミュニケーションが殆どないまちでの事件ではなく、まさにコミュニティが成立していると思われる地域で発生した事件ということを考えると、コミュニティのあり方についてもう一度見直さなければならないのかもしれません。
しかし、子どもが集団下校しているにも関わらず、最後に一人になった自宅までの僅か数十メートルで行方不明になったということですので、やはり最後は親が迎えに行かなければ子供の安全は守れないということではないでしょうか。
親が仕事をしている場合の対応の仕方など、解決すべき課題もあるでしょう。
どうすれば、こどもの安全が守れるか、それを話し合うのは学校だけでなく、コミュニティの役割でもあると思います。
子どもが安心して遊べる公園とは
子どもが被害者となる凶悪な犯罪事件が相次ぐ中、当然、子どもたちは一人で公園で遊ぶことなど出来なくなり、仕方なく家の中で遊ぶことが多くなってくると思います。このことは、子どもの教育という面でも問題にならないか気になります。
どうすれば、子どもが安心して遊べる公園を復活できるのでしょうか。
つくば市にはよく整備されている公園が大小含めていくつもあります。
代表的な洞峰公園には筆者も良く行きますが、池の周りを散歩していると、とてもすがすがしい気分になることができます。
しかし、犯罪が起きる可能性を意識してみれば、やはり「入りやすく、見えにくい場所」でもあり、その可能性が無いとは言えません。
それでは、子どもを安心して遊ばせることができる公園とは、一体どんな公園なのでしょうか。
・公園の中で子どもが遊んでいる状況が常に人目につくようになっている。
・公園や公園の周辺は、整備されていて地域の人が集まりやすい環境である。
・子どもの遊び空間にできるだけ死角がないような設計がされている公園である。
・子どもの遊びを見守る大人がつきそっている
・公園内でなにか問題が発生したときに、直ぐに外部と連絡ができる設備等が設置されている
・樹木の手入れが行われていて、見通しが利く
・防犯を考慮したトイレが設置されている
などなどいろいろと考えることができます。
しかし、これでも問題が完全に解決できるとは限りません。
スポーツ公園、自然公園、動物公園、町内の人が利用する小さな公園など、公園を作るときの目的によって、公園の機能も異なってきます。それによって、設備や公園管理の体制も異なってくるでしょう。
子どもが安心して遊べる空間としての公園をつくる事も社会の重要な責任の一つではないでしょうか。
そんな意味で、つくばの公園を見守っていきたいと思います。
携帯への不審者情報配信のルールを明確に
不審者情報を子どもたちの保護者がもつ携帯へ配信するサービスが普及してきたようです。
例えば、大阪市教育委員会でも、昨年10月から子ども安全メールと称して、携帯への不審者情報サービスを開始し、その後2ヶ月間で130件のメール配信がされたそうです(大阪日日新聞より)。平均すれば1ヶ月に60件以上のメールになり、そのメール数の多さに驚きます。
このようなサービスは、既にスまっぷでも運用していますが、昨年9月からの運用以来これまでに5件程度ですので、それほど多くはありません。緊急を要する不審者情報は少ないほうがそれだけ地域の安全レベルが高いと評価できると思いますから、それ自体は問題ではないのかもしれません。
しかし、携帯メールによる不審者情報の提供についてはいくつかの課題があると考えています。
一つは、メールを受けた保護者が、それによってどのような行動をとるべきかを明確にすることが困難ということです。
おそらく、こんな事件が発生したので注意しましょうということになるのではないでしょうか。しかし、1ヶ月に60件以上のメールが届いたとしたら、次第に感覚が麻痺してくる心配があります。「またか」ということで、内容をよく読むことすらしなくなることも考えられます。
確かに、携帯メールを利用した伝達は、従来の電話等による方法に比べて格段にスピードアップされます。しかし、そのことが防犯につながらないのであれば意味がありません。
また、不審者情報の確かさというのも課題と考えます。
例えば、先の大阪の例では、「女子小学生が五十すぎの見知らぬ女に声を掛けられ、腕を無理に引っ張られた」「登校中の男子小学生が車に乗った男一人と女二人から『車に乗せていったろか』と声を掛けられた」というような内容が携帯に配信されているそうです。これらの例は確かに誘拐未遂というような悪質な内容ですので緊急連絡の必要性が高いと思われますが、不審者情報の定義を明確にしておかないと、単に道を尋ねるだけの行為についても不審者情報の扱いをされかねません。
アメリカでは、アンバーアラートという仕組みがあって、子どもが誘拐されると地元の放送局や高速道路の掲示板等に、その情報が流され誘拐犯から子どもを守る協力を呼びかけるそうです。
この場合、アンバーアラート発令の3つの必須条件というのがあって、
①警察サイドが、18歳未満の子供が誘拐された事実を確認すること
②誘拐された子供が、現在、危険な状態にあると考えられること
③以下の情報を公開することにより、子供の命を救えると考えられること
・誘拐された子供の、年齢、身体的な特徴、着衣
・誘拐犯の、年齢、身体的な特徴、着衣、仕事・関係などの情報
・誘拐に使われていると思われる車の車種、色、年式
この内容がそのまま日本に適用できるかどうかはわかりませんが、このくらい明確な情報発信の基準を明確にしておくことは必要と思います。
子どもの安全に関する情報の効果的な共有システム
文部科学省は、平成18年度予算案として、「子どもの安全に関する情報の効果的な共有システムに関する調査研究 」をあげています。
これは、「IT(携帯電話やパソコン等)を活用し、不審者情報をはじめとする子どもの安全に関する情報を地域で効果的に共有するシステムに係る取組を推進するとともに、その実践事例を分析・整理した上で、広く関係者にフィードバック・周知することにより、各地域における情報共有システムの継続的な取組への努力と創意工夫を促す調査研究を実施する。」ということが目的となっています。
まさに、私たちが推進している”スまっぷ”は、その先進的な例ではないかと考えていますが、この計画の言葉にもある「不審者情報をはじめとする子どもの安全に関する情報を共有する」事の意味について、もう一度考えてみる必要があるのではないでしょうか。
その一つは、不審者情報とはどのような情報を指すのかということです。
地域安全マップづくりの指導者である立正大学の小宮先生も4月8日に国土地理院で行われた子どもの安全WSでも言われていましたが、不審者に気をつけるよう子どもたちを教育することが、ともすれば子どもたちに対して、大人を信用しないように指導する事になり、子どもたちに人間不信を教育する事になりかねないということです。
もう一つは、地域で情報を共有してのち、こども、親、学校、地域住民が、どのようなアクションをとるかということです。
子どもが犯罪に巻き込まれないようにする、あるいは、巻き込まれそうになっり巻き込まれたときときすばやく対応して子どもを救出する。そのために、共有された情報をもとに、地域の関係者はどのような対応をするのか、事前にそのことを検討し準備しておくことが重要と思います。
すばやい行動が子どもの命を守ることにつながります。そのためには、リアルタイムの情報が必要になってきます。その意味で携帯やパソコン等の情報技術(IT)は最大限活用すべきでしょう。しかし、これらはあくまでもツール、最後はやはり人の行動によるしかありません。
ITと人による子どもを守る仕組みが一体となってはじめて子どもが守られる。当たり前の事ですが、案外このことが忘れられてしまいがちであると思います。
最近は、GIS(地理情報システム)を使って不審者情報を発信している自治体も多くなりました。しかし、中には、これをみて次にどうするのか疑問に思うものもあります。行動の取れない安全マップでは意味がありません。
それは、利用者の立場によっても異なります。
行政が利用する場合は、たぶん、地域全体を大局的みて地域の安全性を判断し、次に打つべき対策を考えるでしょう。その場合、安全が低下しているのは地域のどのあたりか○○丁目のレベルで把握できればいいかもしれません。
しかし、同じマップで子どもたちが、通学路のどの場所に注意が必要かは分からないかも知れません。例えば、○○通りを曲がったところは暗くて人目につきにくいけど、その先にこども110番の家があるから、なにかあればそこに逃げ込めばいいというような判断ができるくらいの詳細な情報が必要になると思います。
”スまっぷ”では、今後もそのことをしっかり意識して利用の推進を図っていきたいと考えます。
子どもの居場所づくり
子どもの通学路には犯罪の起こりやすいと考えられるところがいくつもあって、そのことを子どもたち自身が自ら意識できるよう地域安全マップ作りがさかんに行われるようになってきました。
このことは、子どもの安全を守る意味で非常に重要なことですが、一方で危険な場所がいたるところにある中、こどもは一体どこで遊んだらいいのだろうか、居場所がなくなってきているのではないだろうか、そのことは地域との接触機会も少なくなり子どもの健全な成長にも影響を与える事にならないだろうかという心配も出てきます。
危険な場所とされる「入りやすくて、見えにくいところ」の一つに公園があります。
公園の中にこどもたちが楽しく遊べるようにとつくった小山も、みえにくい場所を作る結果となり、あの公園は危険な場所だから行かない方がいいということになってしまいます。
一人では遊ばないと言っても、二人なら安全ということではないし、親としてはこどもをそとで遊ばせることは心配の種です。
こんな背景を踏まえてでしょうか、文部科学省も「地域教育力再生プラン」として、こどもの居場所づくりを進めているようです。
具体的には、子ども居場所づくりとして「市町村レベルにコーディネーター等を配置し、親に対する参加の呼びかけや学校や関係機関・団体との連携協力による人材の確保・登録を行うほか,登録された人材を子どもの居場所へ配置する。」というような内容になっています。
私たちのつくば市では、この事に関してどんな活動がされているのでしょうか、よく分かりませんが、スまっぷでも子どもたちの遊び空間がどういう状況になっているのか、機会があれば取り上げてみたいと思います。